キツツキは1秒間に最大20回のペースで木をつつく。その際に脳にかかる衝撃は重力加速度の1000倍以上——人間ならば一撃で深刻な脳震盪を起こすレベルだ。それでもキツツキが平然としていられるのは、進化が用意した驚異的な解決策のおかげだ。答えは、頭蓋骨をぐるりと一周する「異様に長い舌」にある。
キツツキが木をつつく速さと力は、数字で見るとかなり非常識だ。1回のくちばしの衝突にかかる時間はわずか1ミリ秒以下。1秒間に最大20回というリズムで、これを一日中繰り返す。
この衝撃をG(重力加速度)で表すと、約1000G以上にもなる
秘密は舌の構造にある。キツツキの舌は、哺乳類のそれとまったく異なるつくりをしている。舌の根元は口腔の奥ではなく、喉の付け根から二手に分かれ、後頭部を左右から回り込み、頭のてっぺん(頭蓋骨の外側)を通って、前頭部や右の鼻孔付近にまで達している。
この長大な舌の根元部分(舌骨と呼ばれる骨と、それを包む筋肉・軟骨の複合体)が、頭蓋骨全体をベルトのように包み込む。木をつつく瞬間、この構造がクッション材として機能し、脳への衝撃を分散・吸収する。言うなれば、頭蓋骨を包む「内蔵型のシートベルト」だ。
舌が長い理由はもう一つある。樹皮の内側に潜む虫を深い穴の奥まで掘り出すためだ。キツツキの舌はくちばしの何倍もの長さがあり、先端には逆向きのトゲと粘液があって、虫を引っ掛けて引き出せる構造になっている。防御と採食、一本の舌が二つの役割を担っている。
キツツキの耐衝撃構造は舌だけにとどまらない。頭蓋骨そのものが非対称に作られており、上下のくちばしの長さがわずかにずれている。この「噛み合わせのずれ」がインパクトを上下に分散させ、脳が揺れる方向を一点に集中させない工夫になっている。
また、脳と頭蓋骨の間の空間(脳脊髄液の層)が哺乳類より薄く、脳が頭蓋骨の内側でずれにくい構造になっている。くちばし・舌骨・頭蓋骨・脳脊髄液——複数の機構が重なって、初めてあの衝撃に耐えられる。
自然が長い時間をかけて磨き上げた設計は、エンジニアの参考になることも多い。キツツキの頭部構造は実際に、ヘルメットや航空機のブラックボックス(フライトレコーダー)の耐衝撃設計にヒントを与えた研究が存在する。脳を守るために頭を一周した舌は、知らず知らずのうちに、人間の命も守る技術へとつながっている。